漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
3.
貧血などの血液の疾患
文献
Akase T, Akase T, Onodera S, et al. A comparative study of the usefulness of Toki-shakuyaku- san and an oral iron preparation in the treatment of hypochromic anemia in cases of uterine myoma. 薬学雑誌 2003; 123: 817-24. CENTRAL ID: CN-00457950, Pubmed ID: 14513774,
医中誌 Web ID: 2004068366
J-STAGE 1. 目的
低色素性貧血を有する子宮筋腫女性に対する当帰芍薬散の有効性と安全性の客観的評
価
2. 研究デザイン
ランダム化比較試験 (RCT) 3. セッティング
北里大学病院1施設産婦人科外来
4. 参加者
平成11年8月より平成12年1月末に上記施設を受診した子宮筋腫の患者で低色素性 貧血を示した23名。平均年齢は当帰芍薬散群45.4±1.99、経口鉄剤群42.9±1.68歳。患 者の血中ヘモグロビン濃度の範囲は8-12 g/dl
5. 介入
Arm 1: ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒を1回1包 (2.5 g) 、1日3回 (食前) 3か月服用
Arm 2: 経口鉄剤クエン散第一鉄ナトリウムを1回1錠 (50 mg) 、1日1- 2回 (食後) 、3
か月服用
6. 主なアウトカム評価項目
臨床検査: 血液像 (赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット濃度ほか) 、血清生化 学
(血清鉄、フェリチン濃度ほか) 、血液凝固機能 (PT、APTT) を投与前、投与4週間、8
週間後に評価。臨床症状別の改善度: 蒼白、立ちくらみ、めまい等を5段階判定表に従
って投与前、投与4週間、8週間後に評価。副作用: 薬剤服用8週間中の胸焼け、嘔気・ 嘔吐、下痢等の副作用を発生率により評価。
7. 主な結果
血液像の改善には両群に差はなかったが、臨床症状のうち冷え、蒼白、スプーン状つ
め、めまいは有意に改善された (P<0.05) 。特に冷えは経口鉄群にくらべ当帰芍薬散群 が 有 意 に 高 い 改 善 率 を 示 し た (服 用 8 週 で の ス コ ア: 当 帰 0.3±0.2, 経 口 鉄 2.0±0.6, P<0.05) 。経口鉄剤群の80%に何らかの副作用が認められた (最も多かったのは胸焼け
と嘔気で、いずれも46.7%の発現率) が、当帰芍薬散群では副作用はなかった。 8. 結論
子宮筋腫を有する女性の軽度~中等度の貧血に対する当帰芍薬散の 3か月の投与は、
経口鉄剤にくらべて臨床症状の改善に効果があり、安全である。 9. 漢方的考察
なし
10. 論文中の安全性評価
当帰芍薬散投与群10名では副作用を認めなかった。経口鉄剤投与群では15名中12名
(80%) に副作用を認めた。
11. Abstractorのコメント
本研究にエントリーされたのはすべて子宮筋腫を有する貧血患者であり、血中ヘモグ
ロビン濃度が8-12 g/dlであることから、臨床医の治療計画は非観血的手段となる。一 般的には経口鉄剤の選択がなされるが、本研究の成果によれば、臨床症状の改善は当
帰芍薬散のほうが効果が高いことがわかった。また、副作用の発現率に大きな差があ
り、有効性と安全性を総合すると、当帰芍薬散の臨床的意義は高い。ただ、当帰芍薬
散投与群では、血液像の改善がなく、明らかな経口鉄剤の血液像改善結果から、両者
を併用することが臨床家としての選択ではないかと考える。漢方薬と鉄剤との併用効
果や、貧血の程度別の効果の評価等、今後の新たな研究プロトコールが期待される。 12. Abstractor and date
後山尚久 2008.4.1, 2010.6.1, 2013.12.31